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大阪地方裁判所 昭和34年(モ)2861号 決定

申立人 大阪市

被申立人 日産興業株式会社

主文

本件申を棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

本件申立の趣旨及び理由の要旨は「申立人は右当事者間当庁昭和二八年(ワ)第三二二号建物収去土地明渡等請求事件につき担保提供を条件とする仮執行宣言付原告(本件申立人)勝訴の判決を得たので早速同年六月二日大阪法務局に右担保(金七〇万円)立てて(供託番号昭和三四年金第五、〇一六号)強制執行せんとしたところ、被申立人(右事件被告)は右判決に対し控訴を提起すると共に同年六月一〇日右執行の停止決定を得てこれを停止したので右担保の必要がなくなつたのでその取消を求める。」というにある。

よつて按ずるに、当庁昭和二八年(ワ)第三二二号建物収去土地明渡等請求事件記録、同三四年(ウ)第二七八号強制執行停止決定正本写同三四年六月二日付岡本拓作成「供託したことの証明願」と題する文書(大阪地方裁判所書記官補林作成右証明文書を含む)同月四日付早崎四郎作成郵便送達報告書(被送達者被申立人)及び同年一一月四日付弁護士岡本拓作成「上申書」と題する文書によれば、申立人は主張事件につき同年五月二五日金七〇万円の担保提供を条件とする仮執行宣言付申立人勝訴判決の云渡を受け、同年六月二日大阪法務局に右金額を供託し(供託番号昭和三四年金第五〇一六号)、右供託済証明書も同月四日被申立人に送達されたので同月一〇日午前一一時四〇分右判決につき被申立人に対し執行文の付与を受けたところ、被申立人は既に右判決に対し大阪高等裁判所に控訴を提起した上同裁判所に対し右判決による強制執行の停止を命ずる仮の処分を求め(昭和三四年(ウ)第二七八号)、これに対し同裁判所は被申立人に金七〇万円の保証を立てさせた上前同月一〇日右申立どおりの強制執行停止決定(尚主文中に「本案判決あるまで」とその裁判の時間的効力につき終期の記載あり)をし、その頃右決定正本は申立人に送達されたのでやむなく執行吏に強制執行を委任するのを断念せざるをえなかつた事実が認められる。尚更に申立人主張の如き被申立人において申立人のなした強制執行を停止した事実は疎明資料によるも認め難く右認定に反する疎明資料はない。

ところで申立人は被申立人が強制執行停止決定を得て執行を停止したので申立人の仮執行のための担保を取消さるべきである旨主張するので以下右主張にかかる事実中先に認定しえた事実即ち要するに民事訴訟法第五一二条による仮執行停止決定があつたことが担保取消事由に該当するかについて判断する。

右事実が民事訴訟法第一九七条により準用される同法第一一五条の内第二、第三項の事由に該当しないことは明白であるから以下第一項の「担保ノ事由止ミタル場合」に該当するかについて考える。

思うに、元来担保の制度は当事者の訴訟行為により相手方に生ずることあるべき一切の損害の賠償を確保するため訴訟法上認められたものであり、担保の取消が担保権利者の絶対的優先的排他的権利を有する担保を終局的に消失せしめるものであることよりすれば、右「担保の事由止みたる」場合とは従前担保に代る新担保が別に供せられた場合の外は一般的に被担保債権(損害賠償請求権)の発生の可能性が絶無でなくとも殆んどない場合しかもそれ以上の発生の可能性のない即ち右が確定的である場合に限るものと云うべきである。そうである以上その担保を供して許された仮の行為が有利に或は不利に(例えば執行不能或いは、執行期間の徒過、民訴法第七四九条第二項)確定したる場合であると、担保権利者に損害のない場合、(例えば前例)或いはあつても賠償義務のない(例えば仮執行付勝訴判決の確定)場合であると問わないものと解すべきところ、これを本件についてみるに、成程強制執行停止決定は以後の執行着手を不能にし、その意味において右被担保債権の要件たる仮執行に基く損害が不発生のままであるといえるが抑々民事訴訟法第五一二条の停止決定は仮執行の本案たる控訴審が原勝訴判決に対する不服申立の目的が当該審において達し、新たな所謂観念的形成たる右の取消或いは変更がなされる可能性を認め、これのみを根拠として本来右本案に無関係に独走すべき所謂事実的形成たる原判決の執行を止める応急処分に過ぎないからその時期的効力も又その基盤たる右可能性の有無につき当該審級として一応の確信が表示される時期即ち控訴審判決云渡時迄であることは同法第五四七条の如き規定がなくても、又本件停止決定の如くその旨を明言せずとも右応急処分たる性質及びその根拠より当然であり、従つて本件控訴が棄却されれば申立人は再び原勝訴判決により仮の強制執行をなしうるのであり、右の可能性がないとはいえないからその場合更に上級審の判断如何によつては被申立人に右仮執行による損害賠償請求権が生ずる可能性がある。然らば前記停止による被担保債権の不発生は唯一時的仮の状態にすぎず、それ以上その発生の殆んどないことに確定した場合とは認め難く結局「担保の事由止みたる」場合に該当しないものといわざるをえない。

よつて申立人の本件申立は理由がないから棄却するの外なく申立費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 宅間達彦 常安政夫 杉本昭一)

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